「四十八歳の抵抗」読了
二十歳の頃、友人の影響で石川達三氏の小説を読みあさった時期がありました。
主人公と同世代となった今、たまたま本棚を整理していたら目に留まったのも何かの因縁かとを読み返してみました。「四十八歳の抵抗」(石川達三著/新潮文庫)です。
昭和30年の東京を舞台にした物語。定年(当時は55歳)を意識する歳になった主人公が「このまま老いていくのか?」との迷いから、もう少し人生を楽しみたい(=浮気の一つもしないで人生終わりたくない)と足掻きつつ、自分の娘に対しては厳格な父親という立場を取らなければならない葛藤とか、自分を上手いことあしらう妻への反発とか、戦後世代への反感とか、まぁ歳を取る事への様々な抵抗を試みるお話しです。
二十歳の頃にこれを読んでどう感じたのか、ほとんど覚えていません。石川氏の本は手元に残っているだけでも6冊は読んでいたようなので、それなりに感じるものはあったのでしょう。しかし、今読んでみると「何だかなぁ...(^^;)」という感じです。
定年間近まで真面目一辺倒に生きてきた主人公が、妻に軽くあしらわれ、浮気の一つもと焦ってみても上手くいかず、娘はデキ婚とか、馬鹿馬鹿しいくらいの転落具合。今時2ちゃんねる辺りに書いたら、「チラ裏(ここはお前の日記帳じゃないんだ、チラシの裏にでも書いてろ、な?)」とか、「メシウマ(他人の不幸で今日も飯がうまい)」なんて言われて終わりでしょう。っていうか、2ちゃんねるの創作話の方がもっと面白いものがあったりする恐ろしい時代です。
なんか、今さら読み返すものじゃなかったですね。陰鬱な後味だけが残ってしまいましたよ。(--;)
昭和30年と平成25年で社会状況もインフラも物価も大きく変化していますが、人の営みや欲望といった根本的なものは大差ないように感じます。昔も今も、日常生活の苦悩や疲れはほとんど一緒のようです。そういう時代によって変わるもの/変わらないものを風俗の変遷として読む分には面白いです。
反面、酒・煙草・女くらいしか楽しみがなかった昭和の“大人”と、ありとあらゆる楽しみがあふれている現代の“大人”の差も感じます。いい歳してアニメやフィギュアに夢中になっている“大人”なんて、当時は考えられなかったでしょうからね。
定年が60歳となった(追々65歳になろうとしている)現在において、定年を意識するのは50台も半ばになってからじゃないかな。そういう意味でも主人公の切羽詰まった気持ちを理解するには、少し早かったのでしょうか。
この本、今は絶版みたいですね。
けっしてお薦めするわけではありませんが、カスタマーレビューを参照できるようにamazonさんのアフェリエイトを貼っておきます。
(byぶらっと)
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コメント
同時代性を描くモノは、どうしても時代の壁を乗り越えられないものですね。
直木賞でお馴染みの作家、直木三十五の作品を今読もうとする人は研究者くらいでしょう。
果たして50年後に赤川次郎や西村京太郎は残っているでしょうか?
投稿: 囃屋 佗助 | 2013年6月19日 (水) 07時45分
そういや。
あれ程持ち上げられた片岡義男は、今何をしているんだろう?
投稿: 囃屋 佗助 | 2013年6月19日 (水) 07時50分
時代性つながりでは、最近80年代後半に発行されたOL目線の愚痴本「おじさん改造講座」を読みました。
挙げられていたおじさんたちは時代的なものはあっても、(当時はセクハラ云々などは今ほどうるさくなかったでしょうし、オネェも埋もれていた)2ちゃんの男オタ愚痴スレで見た女オタからみたマナーの悪い男オタとほとんど変わらずのような気がしました。
こういうのは名作とは言わないでしょうが、いつ読んでも古びない読み物だと思います。
投稿: あのつくひと | 2013年6月19日 (水) 12時03分
■佗助さん
確かにこれは今さら読むものではなかったですね。(^^;)
こうして考えると、時代を超えて読まれる作品がいかに素晴らしいか再認識します。
時代を超えることを意識して書いていた星新一氏とかね。
■あのつくひとさん
その本は知らないのですが、なんか面白そうですね。
時の流れで風化していく作品と、時代を超えて読まれる作品。いつ読んでも古びないことも、名作の条件の一つなんでしょうね。
投稿: ぶらっと | 2013年6月19日 (水) 20時02分